河合
その後、処方箋プロジェクトとしては、
実際にゲームの開発に参加するという展開がありました。
ゲームによってどんな気分の変化が生じ得るか、
人間工学的なゲームの評価手法をデザインに応用するというテーマに
2年間ほど取り組んだ成果が、
『99のなみだ』というゲームソフトに生かされています。
いわゆるエモーショナルなアウトソーシングを
意図したもので、それをインタラクティブなシステムとして
いかに機能させるか。国際的に
シリアスゲームが注目される中で、
『99のなみだ』はユニークな事例であったと思います。
香山
みなさんが研究をされている一方で、
ゲームとして最も成功したのが
『脳トレ』ですね。
つまり脳が鍛えられる、活性化されるという目に見える効果を期待した人が多かった。
私もみなさんもゲーム好きだから、
ゲームの効能はそういう実利的なものとは違うと
考えて追求してきたわけですけど、皮肉なことに爆発的に受けたのは、きわめて現実的な効果の方だったわけです。
渡邊
あのブームは予想をはるかに超えていて、
アメリカでもヨーロッパでも受けた。
世界的な脳科学への興味の盛り上がりにばっちりリンクした。
あれが「知能トレ」という名前だったら、全然受けなかったはずです。
香山
一般の人にとっては、脳はコンピューターだという方程式にはまったのかもしれませんね。
河合
ただ、プレーして面白いというのは大事だと思うんです。
香山
ゲームとしてできがよかった。
渡邊
やってることは知能検査や心理実験に近い。
それが面白いというのは、
ゲームとしてきちんとつくり込まれているからでしょうね。
河合
僕は最近、いわゆるレトロゲーム、昔のゲームが好きなんです。
だからゲームのコアにあるシンプルなインタラクションとその面白さに、とても興味がある。
それを突き詰めていった時に、プレーヤーの体験として興味をもったのが、フローという概念です。
中でもマイクロフローという、ちょっとした自己目的的な行為をわれわれは日常的にやっていて、
それを剥奪されると疲労感や眠気を生じたりする。
たとえばペンを指先でくるっと回すような、
なんでもない動作なんだけど、
それが本人にとって意外と重要だったりする。
こういう小さな楽しみという体験に、
ゲームがどのように貢献し得るかについて、実験的に検討を行いました。
このテーマでの目的の一つは、ゲームをいかに止めるか。
ゲームの明らかな問題として、
長時間やりすぎてしまうことがあげられます。
ゲームがマイクロフロー的な影響を及ぼす場合、
どのようなタイミングで、何分くらいのプレーが適当なのかも併せて考察しました。