香山
知的な水準が高くなくても、ゲームの中ではうまく能力を発揮できたり、その世界に溶け込んでいけたりする。
この能力を現実に生かせるようにうまく転換できれば、
ゲームバッシングに対する有効な反撃手段になるだろうと
ずっと思っていました。
たとえば不登校の子にゲームをもっとやれと言って、
それがコミュニケーションの練習になって
実際に学校でも話せるようになるみたいな、
姑息なことを考えていたんですが、それは全然できないんですよ。
渡邊
その応用の利かなさは、かなりはっきりしていて驚きですね。
香山
こんなにゲームでできるんだから、
学校でもどんどん話せばいいじゃないと言うと、
逆に「バカだな、これはゲームだよ」と子供に言われたり。
すごくはっきり区別しているんですよ。よくゲーム批判で、
現実と仮想の境界がなくなる、区別がつかなくなるというけど、もしそうならゲームの中の能力を現実に生かすこともできるはずで、私には逆に区別をしすぎちゃってるように見えますね。
河合
プロジェクトの初期のテーマの一つに、
ゲームを用いた発達障害児の支援がありました。
実際に、40種類くらいのソフトから好きなものを選んで遊んでもらい、あとで子供や親御さんにいろいろ話を聞く。
国立成育医療センターこころの診療部の宮尾益知先生と一緒に進めました。
子供にはプレーすることで気分が変化し、
その後のコミュニケーションや感情の統制などに
影響を与えている可能性が示唆されました。
香山
その際に、親がよくできたねとサポートすることも必要なのか、それともゲームと子供の中だけで完結しているのですか?
河合
とくに親御さんのサポートはなかったので、
完結していたように思います。
香山
子供はゲームをやることに後ろめたさをもっていることが多いので、私がすごいね、うまいねと言ってあげるだけでも自己肯定感を得られる。
渡邊
ゲーム自体は、フィードバックが
とてもわかりやすい形で得られる世界ですよね。
どうしたら勝ちで、どうしたら終わりなのか、すぐわかる。
現実の世界はそれはなかなか出てこない。
ゲームのわかりやすさは子供にとってはプラスだろうし、
達成感を得やすいのは事実でしょう。
香山
私としては、ゲームの中だけでもある程度、
承認欲求は満たされてほしいという気持ちがあって、
そうであろうという勝手な思いでそういうケースを集めたりしていました。
たとえば、引きこもりの少年が親にも言わずにずっと部屋で野球ゲームをやっていて、
その詳細な記録をつけたノートが何十冊にもなっていたという事例があって。しかも、ノートの記録には
優勝してうれしかったとか書かれていた。