「マイクロマウスハーフサイズ競技」レポート
~こじまうす7が初優勝。全面探索が最短走行の鍵か?
第32回全日本マイクロマウス大会ハーフサイズ競技
ハーフサイズ競技には、33台がエントリーした。予選の上位14位までが決勝への進出権を得て32区画の巨大迷路に挑んだ。決勝では1位~3位がそれぞれ違う最短コースを走破。4秒991で、「こじまうす7(小島宏一氏/京都大学機械研究会)」が優勝した。
予選
25台が出走し、探索に成功したのは21台(84%)、第2走行には20台(80%)が成功した。予選1位は小島宏一氏「こじまうす6A」で 3秒037。2位にはNg Beng Kiat氏(Ngee Ann Polytechnic)の「Ning5」。そして3位にも小島氏の「こじまうす7」が3秒167だった。
今年は8位までが5秒台、14位までが11秒台だった。ちなみに去年の予選通過タイムは32秒017である。第2走行の完走率を見ても、この1年で21ハーフサイズマウスの性能が格段に上がったことがよくわかる結果となった。
マウスの知能を問う決勝迷路
決勝には1人1台しか出せないため、小島氏は予選3位の「こじまうす7」を選んだ。決勝進出した13台のマウスのうち、ゴールに到達したのは11台(84%)、第2走行に成功したのが6台(46.1%)だった。
ハーフサイズマウス競技は今大会で4年目となる。これまでは、参加者がハーフサイズの機体を作ることができるだろうか? ゴールへ到達できるだろうか? という懸念が委員会側にもあっただろう。迷路の難易度は、さほど高くなかった。
ある意味、ハーフサイズの施行期間といえる3年が終わり、今大会はいよいよマウス迷路解析に知能が要求されるレベルになった。
そうした委員会の迷路出題意図は、マウスの走りに表れた。
会場で配布された参考コースは上記だが、他にも微妙に違う多数のコースが存在している。ナナメが得意なマウスは中央のナナメを一直線に走るのが、当然、最短コースとなる。直線が速いマウスは、北壁沿いを走り、中間的なマウスにはナナメと直線を織り交ぜたコースが用意されている。コース選択で歩数を優先するマウスには、曲がり角が多いが最短歩数になるコースもある。
「いくつもの特徴あるコースから、機体特性に合った最短コースをマウス自身が選択して走って欲しい」というのが、今回の狙いだ。
そうした委員会側の要望に応えるように、上位3台のマウスは、それぞれがマシン特性に応じたコースを走った。
上位マウスの走りを動画とともに紹介する。
3位の「Excel:mini-3(Khiew Tzong Yong氏/Institute of Technical Education)は、探索の途中でマウスが停止してしまった。2回目の走行を重ね探索でスタートし、西回りでゴールに到達した後、南回りを探索しながらスタート地点に戻ってきた。
【動画】「Excel:mini-3」の探索走行。
そして3回目は、南回りのコース(画像@青線)を走り記録を9秒613と縮め、中央のナナメを探索しながら戻ってきた。4回目も同じコースで走行。記録を7秒033とし、暫定1位となった。再び中央を重ね探索をしてゴールに戻る。
【動画】「Excel:mini-3」の3回目走行。記録は00:09:613。
【動画】「Excel:mini-3」の4回目走行。同じコースで記録を00:07:033と縮めた
そして、最後5回目の走行で中央コースを走った。ここまで中央ナナメのルートを走ったマウスはいなかった。初めて中央突破に成功するか? と観客が期待を込めて見守った。しかし、「Excel:mini-3」は、ナナメの途中に仕掛けられた分岐に入ってしまった。
【動画】「Excel:mini-3」の5回目最速走行。記録は00:06:353
実は、歩数ではこちらの方が短くなっているのだ。迷路を俯瞰してみれば、ナナメに一直線に走れると判断できるが、マウスが迷路を探索しながら計算でコースを選択するのは、難しい。
「Excel:mini-3」の5回目走行が気になったので、3回目と4回目の重ね探索を詳細に追ってみたのが、画像@だ。オレンジが3回目、ピンクが4回目の探索ヶ所だ。
悔しいことに、4回目の探索中にビデオのエラーで一瞬動画が飛んでいる。重要なところなので、非常に残念だ。それでも、探索コースを重ねると、緑部分が未探索なことが明らかとなった。
未探索部分がなければ、「Excel:mini-3」はナナメを一気に直進してくれただろうか?
【画像9】「Excel:mini-3」の3回目、4回目の探索走行を重ねた。緑部分が未探索だった |
【画像10】3位入賞「Excel:mini-3(Khiew Tzong Yong氏/Institute of Technical Education) |
続いて2位の「Ning5(Ng Beng Kiat氏/Ngee Ann Polytechnic)」だ。
「Ning5」は、1分00秒295かけてゴールへ到達。その後、迷路を全面探索してスタート地点へもどった。
2回目の走行は、 06秒586で暫定2位となった。「Ning5」の選んだのは、直線が得意なマウス向きの最短コースだった(画像@)。そして、「Ning5」は帰りは、中央のナナメを一直線に走ってきた。
3回目で6秒009を出して暫定1位。4回目も着実に記録を縮め05秒675。いずれも、同じように西回りをアタックし、中央を帰ってくる。そんな「Ning5」をKiat氏は首をかしげながら見ており、観客席からも笑い声が起きた。
【動画】「Ning5」の探索走行。ゴール到達後は3倍速で編集している。
【動画】「Ning5」の2回目走行。記録は00:06:586。ゴール後はナナメ最短を走ってきた。
【動画】「Ning5」の4回目、最速走行。記録は00:05:675。
優勝した小島氏は、あえて予選1位の「こじまうす6A」ではなく、新作の「こじまうす7」を決勝に進めた。これは、32区画の決勝迷路には長いナナメがあることを予想し、「こじまうす6A」よりナナメが得意な「こじまうす7」の方が有利だと判断したからだという。そんな「こじまうす7」が選んだ最短コースがこれだ(画像@)。
こじまうす7は、探索しながら1分00秒671でゴールに到達、その後5分以上かけて全面探索をした。そしてスタート地点に戻るとオートスタートで第2走行を開始。西回りを選択して直線を一気にゴールまで走った。
迷路を設計した中村先生も「ハーフサイズの迷路を往復した後に、もう一度ゴールをする機体が本当に現れるとは想像していなかった」と、こじまうす7のチャレンジに驚いていた。
【動画】探索走行。ゴール到達後は3倍速で編集している。
【動画】オートスタートの第2走行。探索走行から戻った後、横壁を見て2秒停止している。
小島氏は戻ってきたマウスのタイヤを丁寧に掃除してから、3回目の走行をスタートした。前回と同じコースを走って、記録は5秒548。最終走者だったので、この時点で優勝が確定した。小島氏は笑顔で「こじまうす7」がスタート地点に戻ってくるのを待っていた。
4回目はスピードをパラメータの上から2段目にあげたところ、ゴール前の直線で引っかかってリタイア。競技時間はまだ1分20秒ある。優勝も決定しているので、あとは自己記録にチャレンジするだけだ。
念入りにタイヤを清掃し、5回目の走行。息を殺した観客が見つめる中で、マウスが疾走。4秒991でゴールした瞬間、観客から大きな歓声と拍手がおこった。
小島氏の直前に走行したKiat氏は、選手控え席に残り最前列でこじまうす7の走行を見ていた。3位入賞のKhiew Tzong Yong氏と共に、小島氏に近づき握手を求めた。
【動画】5回目の最速走行。記録は 00:04:991。2回目の7秒と5回目を比較すると、明らかにスピードが違う。
【画像16・17】ハーフサイズ競技優勝の「こじまうす7(小島宏一氏/京都大学機械研究会)」。サイズは、全長55mm、幅37mm、高さ12mm。重さは9.6g。オートスタートを成功させ、自律賞も受賞した |
今大会で、全面探索をしているのは、「Ning5」と「こじまうす7」の2台だけだった。
他のマウスは、走行するたびに帰路で探索範囲を広げる重ね探索を採用している。その中のほとんどが、西ルートを往路に選び南ルートを探索してスタート地点へ戻ってきていた。これは今回の迷路が北へ向かって直進しやすい形状だったのも、理由の一つだろう。
小島氏に、全面探索を選択している理由を尋ねたところ「現行のルールでは、時間に余裕がある限り多くの迷路情報を得てから、最短走行をした方が良い経路を得られる可能性が高い」とコメントがあった。
今後、全面探索するマウスが増えてくれば、ハーフサイズマウス競技はますます面白くなるだろう。
ハーフサイズ競技の探索賞は、5位入賞の「Black Eye II(宇都宮正和氏)」が受賞した。「Black Eye II」は、3回目の走行で途中で何度も壁にぶつかりそのたびに姿勢を正して走り、その姿勢制御の技術も注目を浴びた。
【動画】5位入賞・探索賞受賞の「Black Eye II(宇都宮正和氏)」の探索走行。記録は00:35:010
探索賞。
【動画】「Black Eye II(宇都宮正和氏)」の3回目走行と、4回目の最速走行。記録は00:20:389。動画ではわかりづらいが、画面左側の中央、上辺で壁に当たっている。にもかかわらず姿勢制御をしてゴール直前まで走っている